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ベルンシュタイン IV 動作の構築について(5)

次の話は、古い動作に新しいワンランク上の動作ができるようになったとき、どうなるのか、という話です。

人間は脳も身体も未熟な状態で生まれてきます。

時間が経過するにしたがって、動物の進化を、運動面でも追体験していきます。

発達、と呼ばれるものです。

動作のリストと背景レベル

古い動作をXとします。

新しいワンランク上の動作をYとします。

 新しくて、より強力で、より巧みなレベルが現れると新たな運動の階層が形成されることになりますが、このとき、そこには新しいレベルの動作と本質的な対応を示す古い動作が数多く含まれています。ただし、これらの古い動作は、純粋に技術的かつ二次的ですが克服し難い理由によってどうしても利用できない状態にありました。たしかに、新しいレベルは以前のレベルに比べてより強力な感覚調整をもたらし、より正確な調整やより意味深い動作を可能にし、より能動的です。しかしながら、これらの調整をもってしても動作の制御に必要なあらゆることのすべてを賄い、すべての面から動作を保護することは不可能です。そこで、古いレベルXが登場し、複雑な動作の調整を行うのに足りない部分を補うことになります。

 当然のことですが、古いレベルは、最も基本的で動作全体の制御の根幹に関わるような重大な調整を担当できません。しかし、先頭に立つ基本的な調整には何も問題がなくとも、二次的な多くの要素が足りないために動作が不完全なものになることはよくあります(これから見ていくように、これは例外ではなくむしろ法則です)。その場合、低次レベルが協力して必要な補助を行います。このような動作では、高次のレベルYが主導的な立場にあり、動作の意味や成否を左右するような基本的かつきわめて重要な調整に対して責任を負います。このとき低次のレベルXはエンジンの潤滑油の役目を果たします。その調整によって、動作はより簡単に、よりなめらかに、よりすばやく、より捗り、より巧みになり、成功する確率が高くなります。つまり、これらの補助的な調整は、動作をおおもとから支える背景であるといえるでしょう。それゆえこのような場合には、下位のレベルXが動作に対して背景レベルの役割を担っているということにしましょう。

 少年が駆け出し、走りながら巧みに木からリンゴをもぎ取りました。リンゴをもぎ取る動作に要求される調整は、走ったり跳んだりする動作を制御するレベルを超えています。リンゴをもぎ取るという動作は、走ったり跳んだりするよりも高次の異なる脳構造によって制御されています。いっぽうで、リンゴが高い木の枝にぶら下がっており、助走して跳びつかなければ取れないときには、もぎ取るという動作を制御するレベルだけでは動作を成功させることができません。このときには、走って跳びつくという移動運動の助けを借りる必要があります。この例では、助走は、先ほど議論したような補助的あるいは技術的で低次の背景レベルを担うことになります。高次レベルは、いわば必要な調整のうち自前で賄えない補助的な動作の要素を低次レベルから借りてくることになります。

錐体路である「皮質脊髄路」は、四肢の繊細な、熟練した、巧みな運動の制御を支配する神経路、でした。

錐体路である「皮質脊髄路」はすべての筋のα運動ニューロンに結合しています。

そして、「皮質脊髄路」は屈筋の筋緊張を促通し、伸筋の筋緊張を抑制しています。

どちらかというと、伸筋の筋緊張を促通し、屈筋の筋緊張を抑制することは苦手、ということになると思います。

伸筋の活動を促通しているのは、錐体外路である前庭脊髄路と橋網様体脊髄路、といわれています。

脳から命令が下ってくる経路には、それぞれの得意分野がある、と私は捉えています。

 技術的な背景調整の役割は、円盤投げのような複雑な動作を行うときにはっきりします。投げる動作それ自体を行うレベルは、基本的には先はどの例で先導的な役割を担ったレベルと同じです。しかし、動作を正確に遂行して成功させるには、多くの補助的な調整が必要になります。まず、首や体幹の筋を不随意的に収縮させ、適正な緊張を保つことが必要になります。また、身体をばねのようにねじって勢いよく戻すためには、頭から足先にまで全身にわたる筋のシナジーが必要になります。この動作も移動運動を必要としますが、助走にひねりが加わるぶんだけ先はどの例よりも複雑になります。

 これらすべての背景調整は、最終的に行われる最も重要な投げ動作のために必要です。投げる動作は、ちょうどその他すべての下位動作の担ぐ御輿に乗せられる格好になります。このときそれぞれの背景レベルは、低次のレベルで構成される動作の調整を引き受けます。この例では、ほとんどすべてのレベルが裏方仕事に関わることになり、それらすべての間の協力的で調和した相互作用によって動作全体の主目的-すなわち円盤投げ-の結果は最大限に達します。背景レベルの上に乗った動作は、ちょうど馬にまたがる騎手のようなものです。

下位の担う、適正な緊張、というのはとても難しいですね。

ここをコントロールできれば、私たちの病気の痛みは随分和らぐことになります。

それは、運動の上手いヒトにみられる特徴でもあります。

私たちのような難病患者が運動が上手いかというと、そうではありません。

運動してスキルを磨けるほど健康ではないし、また痛みは緊張を増悪させます。

悪循環に陥ってしまうケースの方が多いと思います。

私の場合はそうでした。

 新しいレベルYが古いレベルXの上に現れると、新しいレベル自体が担当する動作のセツトに加えて、Y/Xとでもいうべきセットが一つ余分に生まれます。これは、レベルXが補助的な背景調整を担当する動作にあたります。さきほどの例を示した後では改めて強調するまでもないことですが、人間におけるそれぞれのレベルは、背景で支える技術的な要求を満たすために、あらゆる低次レベルをあらゆる組み合わせで利用することができます。

 先はどの例によって、各レベルが複雑でありながらも同時に調和のとれた協力関係を作り上げていることが明らかにされました。ただし、勘違いしてはなりません。協力関係は、自発的に現れるわけではないのです。新しいタイプの動作はどれもみな、そのような協力関係を作り上げるために念入りな準備作業を必要とします。この作業を練習と呼びます。練習の際には、ある動作を行うのに最もふさわしいいくつかの技術的な背景調整を同時に働かせたり、動作の背景レベルどうし、あるいは先導レベルと背景レベルとの相互の調節を行ったりします。低次レベルが背景で協力して動作の調整をするようになることを、動作の自動化と呼ぶことがあります。

さて、新しい脳が制御する運動の上位レベルと、古い脳が制御する下位レベルを、できるだけ身体に負担をかけずに協力させましょう、というのがこのブログの目指しているところです。

この記事のまとめ

◆新しいレベルは以前のレベルに比べてより強力な感覚調整をもたらし、より正確な調整やより意味深い動作を可能にし、より能動的である。

◆新しいレベルの調整をもってしても、動作の制御に必要なあらゆることのすべてを賄い、すべての面から動作を保護することは不可能である。

◆新しい運動を完成させるために、低次レベルが協力して必要な補助を行う。

◆動作を正確に遂行して成功させるには、多くの補助的な調整が必要になる。まず、首や体幹の筋を不随意的に収縮させ、適正な緊張を保つことが必要になる。頭から足先にまで全身にわたる筋のシナジーが必要になる。移動運動を必要とする場合、さらに難しくなる。

◆協力関係は、自発的に現れるわけではない。新しいタイプの動作はどれもみな、そのような協力関係を作り上げるために念入りな準備作業を必要とする。この作業を練習と呼ぶ。

◆低次レベルが背景で協力して動作の調整をするようになることを、動作の自動化と呼ぶ。

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