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ベルンシュタイン IV 動作の構築について(2)

ヒトの赤ちゃんは、すぐに立ち上がったりできません。

なぜかというと、成熟しきる前に生まれてくるからです。

同じように、脳も未成熟な状態で生まれてきます。

生理的早産の赤ん坊

 出生したばかりの人間において、中枢神経系に不完全な部分が多いことに疑いはありません。その構造上の欠陥がすべて解決されて、ちょうど摘み取られた青いトマトが日当たりの良いところにおかれて赤くなるように完全に成熟するまでには二年以上かかります。脳の成熟はとても遅いです。はっきり定められた特定の時期に順序よくシステムが活性化され、子供の運動能力は豊かになっていきます。

 自然界における生物発生の慣習が示すのは、祖先のたどってきた進化系統的発達の主要な段階のすべてが、その種の個体的発達の初期に要約されたかたちで繰り返されるということです。器官の形成と発達の過程において、個体は古の進化の記憶を、わずかの期間に自分自身でたどることによって回想します。たとえば、遠い昔、私たちの祖先は現在の魚類のようにえらで呼吸していました。しかし現在でも、胎児には妊娠から数週間はえらがついています。それは後に、舌下骨や中耳にある聴骨、耳から鼻咽腔へ通じるエウスターキオ管などをもつ他の器官へと変化していきます。生物発生の法則は運動中枢組織や動作そのものにもぴたりとあてはまります。

 新生児の脳は動物界での進化と同じ順番で、一段階ずつ成熟していきます。新生児は、淡蒼球(レベルB)が完成しようとするころに生まれます。爬虫類ではここが成長の上限です。このため、新生児は爬虫類が可能な動作以上のことはできません。しかし、誕生の時点でより古いレベルAが成熟しきっていないことから、事態はより複雑になります。レベルAは首や体幹の動作や姿勢(後ほど触れる)の制御を行うところですが、十分に機能するよう成熟するには妊娠期間が短すぎるのです。このため新生児は、頭と身体を支える中心的構造である首と体幹を制御することができず、さらにこれをダイナミックに支える手足も使うことができません。新生児は力なく仰向けに横たわり、その体幹は重く動さがなく、手足は何の意味もなくむやみにばたばた動くだけです。もう一つ話を複雑にする要因があります。レベルBは脊髄の運動細胞ヘインパルスを送ることができ、それを通して筋へとインパルスを送ることができますが、そのためには下位のレベルAの神経核がかならずあいだに入るということです。これによりレベルBは、レベルAが運動インパルスを通すことができるように成熟するまで足止めを食います。赤ん坊がレベルBに伴うシナジー、つまり手足を協応させた動作ができないのはこのためです。実際のところ、生まれてから二、三ヵ月までの赤ん坊にはいかなる運動協応も備わっていません。三ヵ月を過ぎるころになってやっと、協応した眼球運動や寝返りなどの活動ができるようになります。半年も経つと、脳の二つのレベルがほぼ同時に機能しはじめます。つまり、最低次のレベルAによって体幹が強化されて協応するようになり、線条体(レベルC1)によって座ったり、脚で立ったり、その後に這ったり(人間の祖先が四本足であったことの生物発生学的な名残りがここにも現れています)、そして最終的には歩いたり、走ったりできるようになります。

具体的に、淡蒼球(レベルB)までが完成してくるくらい、と言われると、赤ちゃんがどういう状態なのかがイメージがつきやすいのではないか、と思います。

淡蒼球といえば、魚からカエルですね。

生まれたての赤ちゃんは魚やカエルくらいの動きしかできません。

Jp36

 錐体路運動系の発達はさらに長くかかります。皮質の感覚野が働きはじめるほうがずっと早いです。赤ん坊は、以前に見た対象を再認し、話しかけられた言葉を理解し、食べ物の好き嫌いを言い出しはじめます。錐体路運節系は、生まれて半年ほど経った後に、線条体に続いて徐々にその姿を現しはじめます。赤ん坊がものをつかんだり、何かを置いたり動かしたり、指で指し示したりするようになる背後には、錐体路運動系の発達があります。ときを同じくして、意味のある発話がはじまります。それらの発話はふつう要求や命令です(「ちょうだい」など)。手の動きはまだとても不正確で、たいてい目標から大きく外れてしまいます。しかし、この時期になるまでは掴もうとしたり投げようとしたりすることすらありません。そもそも、そういった動作を行うための仕掛けがまだないのです。六ヵ月以降の乳児と六ヵ月以前の乳児の違いは、自転車をもっていてどうにか乗れる人と、そもそも自転車自体をもっていない人の違いと同じようなものです。

まず大脳皮質は運動野ではなく、感覚野が働き始めます。

赤ちゃんはいろんな反射で体を動かします。

これを発達段階とかいったりします。

手は錐体路が発達しないとだめなので、赤ちゃんは握るのが全部の指で掴む、といった下手な握り方しかできません。

言葉も話せませんね。

舌足らず、とかいいますが、舌の動きも錐体路でしたね。

 赤ん坊が成長するにつれ、徐々に錐体路運動糸が進化しますが、このとき高次の皮質レベルも姿を現し、成熟しはじめます。皮質の行為システム(レベルD)は、二歳になってから形成されます(第V章で述べます)。皮質システムによって、子供はまず、つたない動きではあるがとにかく物体を操作できるようになります。たとえばスプーンを使って食べたり、箱を開けたり、クレヨンで絵を描いたり、靴下を脱いだりすることができるようになります。次に、皮質システムによって会話の発達段階が一つ上がり、対象を命名するようになります。この段階は、子供の自我発達にむけての大きな一歩と対応しています。まもなく、子供は自分というものを認識するようになり、「ンマ、ンマ」というはっきりしない言葉を「おなかすいた」という堂々たる言葉で置き換えるようになります。

 脳は、解剖学的に見れば二年ほどで成熟してしまいます。しかし、全体的な運動はまだまだ発達途上にあります。一四から一五歳になるまでは、完全な動作の制御ができるとはいえません。この頃までの一〇代の少年少女は、さまざまな面で不器用であり、持久力が足らず、子供じみた学を書いたりします。このようなことから、脳の各部位が全体として調和のとれた働きをする(これを生理学者は機能的成熟という)ようになるのは、解剖学的に成熟してからずっと後になることが分かります。

この記事のまとめ

◆ヒトの脳が解剖学的に成熟するのは生まれてから2年程度である。

◆祖先のたどってきた進化系統的発達の主要な段階のすべてが、その種の個体的発達の初期に要約されたかたちで繰り返される。器官の形成と発達の過程において、個体は古の進化の記憶を、わずかの期間に自分自身でたどることによって回想する。

◆生まれたての赤ん坊の脳は淡蒼球(レベルB)が完成しようとするあたりで生まれる。

◆生まれたての赤ん坊の脳は赤核(レベルA)が完成していない。レベルBの運動インパルスはレベルAを経由する必要があるため、レベルAが成熟するまで足止めをくう。

◆ヒトの脳が機能的に成熟するのは14、15歳程度である。

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