ベルンシュタイン VI 練習と運動スキル(5)
最小限の努力でさまざまな種類のよく計画された感覚を経験し、これらすべての感覚を、意味を理解しつつ吸収し記憶する上で最適な条件を創り出すように組織化された、最も実用的で正しいトレーニングとはどのようなものでしょうか。
運動スキルの構築
先導レベルと運動の構成
すでにみてきたように、運動スキルに関する旧来の理解には二つの基本的な誤りがあります。まずはじめに、スキルは、中枢神経系が好むと好まざるとにかかわらず、中枢神経系の中に入り込み定着すると誤解されていました。本当は逆で、神経系はスキルに従属するのではなく、スキルを自らの内部に組み立てます。つまり、練習とは能動的な組み立てのプロセスです。次に、スキルは神経系に徐々にゆっくりと入り込んでいくと誤解されていました。ちょうど、釘をハンマーで打って徐々に壁に打ち込んだり、衣服に、はじめは10%、次に25%、その次に75%というように徐々に染料をしみこませていくようにです。神経路が開通するまで、舗装工事をずっと続けるようなものです。本当は逆で、スキルの構築は、あらゆる構築や発達のように、質的に大きく異なる別々の段階から構成されます。スキルの構築は意味のある連鎖反応であり、各段階を省略したり、入れ換えたりすることはできません。これは、コートを着る前にコートのボタンを掛けたり、タバコに点火する前にマッチの火を吹き消すわけにはいかないのと同じことです。スキル自体は均質なものではありません。先導レベルおよびその背景調整、高次構造および補助構造、異なる自動性、調整、および通訳など、これまで議論してきたすべてのものが含まれています。スキルが誕生し、発達し、一生を送る過程も、同じように均質ではありません。この歴史を、サイクリングと棒高跳びという複雑さの異なる二つの代表的なスキルを用いて順次紹介してみましょう。そのほか、スポーツや、労働や、日常生活のスキルからの例も顔を出すことになるでしょう。
運動をするには順番に連鎖的に、身体を動かしていく必要があります。
・スキルの構築は、あらゆる構築や発達のように、質的に大きく異なる別々の段階から構成される。
・スキルの構築は意味のある連鎖反応であり、各段階を省略したり、入れ換えたりすることはできない。
・スキル自体は均質なものではなく、先導レベルおよびその背景調整、高次構造および補助構造、異なる自動性、調整、および通訳など、これまで議論してきたすべてのものが含まれている。
・スキルが誕生し、発達し、一生を送る過程も、同じように均質ではない。
私たちが新たな運動課題に出会ったとき、まずはじめに問題となるのは、やはり責任をもって面倒を見る保護者となる先導レベルをはっきりさせることです。しかしながら、健康な成人ならば、まったくはじめての運動課題を行うときであろうがなかろうが、この問題は解決ずみでしょう。そもそも成人であれば、今までの人生で出会ったことのないような運動課題など存在しないと断言できるであろうし、少なくとも最初は行為のレベルDが先導して制御する必要があるはずです。誰しも少年時代や青年時代を通じて、空間のレベルCだけで人間の動作をほぽすべて独立して先導したなんらかの経験をもちます。この理由に加えて、成人ではほとんどの動作がレベルDで制御されているため、このレベルDは新たなスキルを構築する責任者になることに慣れています。似たような運動スキルでも、成人における発達と、高次の空間レベルC2より上のレベルをもたない赤ん坊や動物における発達とが異なるのはこのためです。
ここで注意すべきことがあります。とりわけこの習慣のために、行為のレベルDはいつもスキルを習得しはじめるとき先導的な役割を果たしてしまいます。空間レベルCが当然制御の担当を交代して受けもつべき場面でさえ、レベルDが先導してしまいます。たとえば、このプロセスは、水泳のような典型的な移動運動を学習しはじめた場合に生じます。この事実が示すのは、先導レベルの交代が困難で骨の折れるプロセスであり、すばやく簡単にできる背景調整の交代とは好対照をなすということです。それゆえ、水泳のようなスキルは、子供より大人の方が自動化するのに多くの努力を要し、時間がかかります。子供の場合には、このようなスキルはすぐに空間レベルCによって制御されるようになるからです。このような空間的スキルは、子供のころに学習しておくべきです。そうすれば少ない労力ですみます。
皮質脊髄路(錐体路)とレベルC2とレベルDの違いがちょっと分かりにくくなっています。
レベルC2は皮質錐体路、という記載が本文の中にあります。
皮質錐体路とは、おそらく皮質脊髄路(錐体路)のことだと思われます。
皮質脊髄路では、40%が運動野固有、のこり60%が前頭葉、または頭頂葉からきます。
一次運動野(ブロードマンの4)は脳地図(ホムンクルス)があるところです。
運動前野(ブロードマンの6)とは、一次運動野の前方にあります。
運動前野は、ボタンを押そうとしたらまず1番に働き始めるところでした。
6野は運動の発現です。
運動前野は運動前皮質と補足運動野の2つの領域があります。
運動前皮質は半球の外側部表面にあります。
二次運動野(別名:補足運動野)は半球の前内側面にあり、ここにも身体の全体図があります。
運動前野を刺激するには、強い電流が必要です。
運動前皮質の損傷では、運動をコントロールするための外部からの手掛かり信号(たとえば視覚刺激)を用いる能力を損ねます。
補足運動野の損傷では、内的な運動記憶に基づく運動を構成する能力を損ねます。
(参考図書:マーク.L ラタッシュ著『運動神経生理学講義 細胞レベルからリハビリまで』p136)
レベルDは言語中枢などが特徴的なレベルDの領域となっています。
言語中枢は前頭葉にあります。
巻末にはレベルCが線条体・視覚野・聴覚野、レベルDが運動前野になっています。
ちょっとややこしくなってきたので、次の記事に譲ります。
ちょうどいい本が手に入りました。
・先導レベルの交代が困難で骨の折れるプロセスであり、すばやく簡単にできる背景調整の交代とは好対照をなす。
大人になったら全部言葉で考えてしまう、というのは悪い癖です。
子どもの方が飲み込みが早い、という経験は、大人になって家族でレジャーを楽しんでいる人なら体験したことがあると思います。
個人的には、命の関わる水泳と柔道のような格闘技の受け身は、子どものころに身につけておいた方がいいのではないか、と思います。
新しいスキルを構築する二番目の段階は、運動構造の構成[組み立て]として定義されています。第一の段階(すなわち、先導レベルを選択する段階)はあまり時間がかからないので、実質的にはこの段階から学習のプロセスがはじまることになります。
空間のレベルによって制御される単純な動作に関する限り、運動の構成は動作のパターンや性質のあらゆること―これはしばしば運動構築と呼ばれる―に関わっています。運動競技や体操のスキルでは、運動構成は、ほぼ動作のスタイルと呼ばれるものに相当します。たとえば、幅跳び、平泳ぎ、クロール、バタフライには、西洋式のスタイルと東洋式のスタイルとがあります。生理学者ならば、それぞれの移動運動に対してそれぞれ異なる運動構成を割り当てるでしょう。
レベルDに属する複雑な連鎖反応を構成する際には、分離した運動リンクの構造とそれらの動作リストの両方を使います。たとえば、壁にねじ釘を通すという運動を組み立る際には、錐を取り握る、穴を開ける、ドライバーとねじ釘を手にとる、ドライバーを回すなどの動作を用います。
ほとんどのスキルでは、運動構成は問題なく決まります。私たちは、子供のころから多くの動作やスキルを観察してきました。自転車に果る練習をはじめた人は、おそらく子供のころ三輪車に乗った経験があるでしょう。これら二つのスキルには共通する動作が多いです。運動競技や体操の動作、あるいは労働に関わる動作では、ふつうコーチや指導者がいて、動作を実演し、説明してくれます。また、部分に分けて示すこともできます。それにもかかわらず、運動構成を決定するときには面倒が多く、苦労することもあります。
スキルを学習しようとして面倒な問題が生じるのは、たいてい自分一人だけでやろうとしているときです。運動構成を発明することに、しばしば多大な時間を費やしてしまいます。ロビンソン・クルーソーは、無人島でひとりぽっちになったとき、若いころに単純な職業的スキルを学はうとしなかったことを深く後悔しました。彼は結局長い時間を費やして、仕立屋や、建具屋や、陶工の基本的なスキルを学習するはめになりました。だが、問題に直面するのは初心者だけではありません。特に、棒高跳びなどでは、何十回も繰り返し見ても肉眼では見分けがつかないようなきわめてすばやい数多くの微調整が含まれます。たとえ何か気づいたとしても、それを実際に自分の身体で行うのは難しいです。たとえば指導者とまったく同じように腕や体幹をひねりなさいと言われても、簡単にはできません。さらには、体つきや、筋肉や、とりわけ各脳レベルの構造や発達具合は十人十色であるため、あるスキルの概略をおおよそ獲得した後には、身体運動構成をいろいろと調整して、学習者本人の個性にうまく合わせる必要があります。ときに学習者は、台を飛び越えやすくする腕のひねりかたや、道具や補助具を操作する特定のやりかたなどをみつけることがあります。ここには、才気溢れる同胞スタハーノヴィッチ(スタハーノフの後継者たち。スクハーノフは一九三〇年代半ば、ソビエト社会主義共和国連邦において「コミュニスト労働の強化」を目指した社会運動のきっかけになった人物)が労働の最前線でみせたような、発明と合理化のための余地が大いにあります。
この記事のまとめ
◆神経系はスキルに従属するのではなく、スキルを自らの内部に組み立てる。つまり、練習とは能動的な組み立てのプロセスである。
◆スキルの構築は、あらゆる構築や発達のように、質的に大きく異なる別々の段階から構成される。
◆スキルの構築は意味のある連鎖反応であり、各段階を省略したり、入れ換えたりすることはできない。
◆スキル自体は均質なものではなく、先導レベルおよびその背景調整、高次構造および補助構造、異なる自動性、調整、および通訳など、これまで議論してきたすべてのものが含まれている。
◆スキルが誕生し、発達し、一生を送る過程も、同じように均質ではない。
◆私たちが新たな運動課題に出会ったとき、まずはじめに問題となるのは、やはり責任をもって面倒を見る保護者となる先導レベルをはっきりさせることである。
◆最初は行為のレベルDが先導して制御する必要がある。
◆誰しも少年時代や青年時代を通じて、空間のレベルCだけで人間の動作をほぽすべて独立して先導したなんらかの経験をもつ。
◆成人ではほとんどの動作がレベルDで制御されているため、このレベルDは新たなスキルを構築する責任者になることに慣れている。
◆似たような運動スキルでも、成人における発達と、高次の空間レベルC2より上のレベルをもたない赤ん坊や動物における発達とが異なるのはこのためである。
◆この習慣のために、行為のレベルDはいつもスキルを習得しはじめるとき先導的な役割を果たしてしまう。空間レベルCが当然制御の担当を交代して受けもつべき場面でさえ、レベルDが先導してしまう。たとえば、このプロセスは、水泳のような典型的な移動運動を学習しはじめた場合に生じる。
◆先導レベルの交代が困難で骨の折れるプロセスであり、すばやく簡単にできる背景調整の交代とは好対照をなす。
◆水泳のようなスキルは、子供より大人の方が自動化するのに多くの努力を要し、時間がかかる。子供の場合には、このようなスキルはすぐに空間レベルCによって制御されるようになるからである。このような空間的スキルは、子供のころに学習しておくべきである。そうすれば少ない労力ですむ。
◆移動などの空間的スキルは子どものうちに学習することが望ましい。
◆新しいスキルを構築する二番目の段階は、運動構造の構成[組み立て]として定義されている。第一の段階(すなわち、先導レベルを選択する段階)はあまり時間がかからないので、実質的にはこの段階から学習のプロセスがはじまることになる。
◆空間のレベルによって制御される単純な動作に関する限り、運動の構成は動作のパターンや性質のあらゆること―これはしばしば運動構築と呼ばれる―に関わっている。運動競技や体操のスキルでは、運動構成は、ほぼ動作のスタイルと呼ばれるものに相当する。
◆レベルDに属する複雑な連鎖反応を構成する際には、分離した運動リンクの構造とそれらの動作リストの両方を使う。
◆スキルを学習しようとして面倒な問題が生じるのは、たいてい自分一人だけでやろうとしているときである。
◆体つきや、筋肉や、とりわけ各脳レベルの構造や発達具合は十人十色であるため、あるスキルの概略をおおよそ獲得した後には、身体運動構成をいろいろと調整して、学習者本人の個性にうまく合わせる必要がある。
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