ベルンシュタイン III 動作の起源について(6)
次のお話は横紋筋の弱点についてです。
スピードと力強さを解決した横紋筋ですが、使いにくい、という問題点がありました。
それでもその横紋筋のシステムを使う以外にスピードと力強さを手に入れられなかったのと、スピードと力強さは弱点を補って余りあるほど有利でした。
その結果、横紋筋を持った生物が繁栄していくことになります。
横紋筋の弱点
横紋筋の収縮様式は、荒っぽく鋭い収縮であり、あまりに急で爆発的なので付着している骨を壊す恐れがありました。筋の組織に、そのため、荒々しい攣縮に対して緩衝材すなわち衝撃吸収材の役割を果たす要素(等方性要素といいます)を組み込みました。この要素は、攣縮中には伸張し、それから徐々になめらかに短縮して筋が自らの機能を果たすのを補助します。顕微鏡で見ると、筋に横じまがあるようにみえるのは、収縮要素と緩衝要素が交互に並んでいるからです。
弱点その1:筋の収縮は荒っぽくて爆発的である。
解決法:衝撃を和らげる=緩衝する組織ができた。
次なる横紋筋の弱点として、収縮の要素(異方性要素と呼びます)は長時間収縮し続けることが絶対にできないという点があげられます。そのうえ収縮時間も調節できません。
収縮の要素にできることといえば、非常にすばやく、爆発的に収縮して力を発揮することだけです。人間の筋では、この爆発的な収縮はほんの1000分の1秒程度しか持続しません。さらに都合の悪いことには、いったん収縮すると異方性要素は疲労困燃してしまい――あるいは生理学者にもまだ分かっていない別のことが起こっているのかもしれない――収縮後に回復して再び仕事に取りかかる準備を整えるためには、収縮時間の2、3倍の時間を要します。爆発的な興奮の直後には、いくら強い刺激を加えて興奮させようとしても異方性要素は決して興奮しません。このようなことは、古き良き日の従順な平滑筋細胞には決して起こりませんでした。
このような異方性要素の不便さを何とかするために、もう一つの妥協策が必要となりました。神経系は、横紋筋にマシンガンなみの速さ(一秒間に50~200回)で続けざまに発射される連続した興奮性刺激を送ることを学習しました。異方性要素が爆発的に収縮する時間は二つの連続するインパルスどうしの間の時間間隔より短いが、このときには等方性要素が一回の収縮時間を引き延ばす役目を果たしてくれます。
異方性要素の収縮をなめらかにしてくれる要因は他にもあります。要素間の隙間を埋めるゼリー状の半液状物質(筋形質という)のもつ粘性、腱や靭帯の弾性、そして運動器官自体の慣性などがそれです。
先ほど説明した高頻度の連続した興奮(強縮という)は、横紋筋線維をより長い時間繰り返し収縮させたり、100分の2秒以上収縮を持続させるための唯一の方法です。
弱点その2:長時間収縮させることができない。
解決法:連続して収縮させるように興奮を送り続ける。
筋肉をギューっと収縮させてみると、唸るような音が出ています。
友達に腕に力こぶをつくってもらい、耳をあててみるか、自分の口をギュッと閉じて奥歯を食いしばると、耳に音が聞こえてきます。、
大きな問題となるのは、横紋筋が収縮する間にそこから化学的エネルギーが一気に放出され、外部に対して機械的な仕事をしようがしまいがこのエネルギーはもう横紋筋には戻らないことです。
筋が、ある重りを持ち上げることなく、ある高さに保持するという仕事をする場合でも、強縮つまり毎秒何百回もの収縮によって行うしかありません。収縮ごとに放出されるエネルギーの量は、重りをすばやく持ち上げる時に放出されるエネルギー量と変わりません。このように動きのないときには、機械的な仕事は何もしていないので、筋が発揮した大きな力は使い道のない熱に変わります。
異方性要素は収縮時間だけでなく収縮力も調節できません。横紋筋に電気刺激を与える場合、筋線維がその刺激を感じとって収縮をはじめるためには、ある程度大きな電流を流さなければならなりません。いったんこの閾値を超えてしまうと、あとはいくら電流を大きくしようが筋線維の収縮強度は1パーセントたりとも増加せず、もとのままです。横紋筋が機能するときのこのような法則には、とても分かりやすい名前がついています――「全か無かの法則」。同じような法則が、ライフルの発射にもあてはまります。弾を撃つにはある閾値に足る力で引き金をひかなければなりません。しかしながら、引き金をもっと強い力で引いたからといって、弾の威力が増したり、弾がもっと遠くへ飛んだりすることはありえません。
瞬間的な収縮による力の発揮だけが異方性要素の機能する唯一可能な様式であって、この力もまた調節できないとなれば、自然は筋の制御を可能にするためにまた別の妥協案を発明しなければならなくなりました。一本一本の運動神経は、その分枝を、10本から100本の筋線維が一まとまりになったグループに送る。このようなグループを筋単位と呼びます。体の中にある筋は、大きさに応じて数十から数百の運動単位で構成されます。収縮の力は、収縮に関わる運動単位の数を調節するという方法で制御されます。神経系はまさに運動単位のスイッチをオンにしたりオフにしたりするという制御方法を用いており、これによって筋力を驚くほどなめらかで繊細に変化させることができるのです。
弱点その3:収縮力を調節できない。
解決法:筋は小さいグループで分かれているので、スイッチを入れるグループの数を調節する。
この記事のまとめ
◆筋の収縮するための要素(異方性要素)は瞬間的な収縮による力の発揮だけしかできない。
◆筋を連続して収縮させるためには、興奮を送り続ける必要がある。
◆筋の収縮力を調節するためには、スイッチを入れるグループの数を調節する。
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- ちょっと専門的な話(2008.05.13)
- 筋について (2008.05.10)
- セラピー/therapyって何ですか?(2008.04.17)
- ベルンシュタイン III 動作の起源について(12)(2008.05.12)
- ベルンシュタイン III 動作の起源について(10)(2008.05.11)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1023419/20869787
この記事へのトラックバック一覧です: ベルンシュタイン III 動作の起源について(6):

コメント