ベルンシュタイン III 動作の起源について(12)
脳の進化と動作の関係について、次は鳥類です。
もしヒトに天使のような翼があっても、骨が重いので飛べません。
鳥類が到達したのは、線条体といわれる神経核の構造までです。
人間にも線条体はあります。
鳥類が到達した運動
爬虫類では最高の神経核だった線条体は、鳥類に至って完成しました。同時に、平衡を保ち、「自らの身体を制御する」器官である小脳も線条体に並んで高度なレベルまで発達しました。線条体(レベルC)は複雑な神経‐筋システムを先導し、脊椎動物の神経-筋システムは段階を追うごとにほんの少しずつ発達していきました。この段階のうち最も古いものがレベルAです。次のレベルBはカエルの脳の大部分を占める淡蒼球のレベル、そしてレベルC1が線条体のレベルであり、鳥類で黄金時代を迎えました。これらのレベルがまとまって錐体外路運動系を形成しました。
まず、そのすべての神経核(レベルと言い換えてもよいでしょう)は、上司と部下の関係にあり、いわゆる階層構造をなしています。次に、脳が新しい層を加えながら徐々に大きくなり続けたため、若いレベルは筋への神経路を新たに伸ばす必要がありませんでした。すべての筋へ至る経路はすでに整備されていたのです。この結果、多層というにふさわしいシステムが現れました。
原始的な脳ほど、脊髄から少し上までしかありません。
人間の場合、脊髄の上にいくにしたがって、延髄、橋、中脳、中脳と橋の後ろに小脳、中脳の上に、間脳、最後に大脳(終脳)と続きます。
錐体外路とは、ちょっと古い運動を司る命令が通る神経の道、と考えてください。
間接賦活経路、とも言います。
他の神経を介さず筋に直接つながる経路はすべて脊髄の神経細胞が始点になっています。この細胞は、運動神経系のいわば前駆細胞です。筋に命令を伝えるレベルAの神経核(赤核)からの経路は脊髄の運動神経細胞だけにつながっており、目的とする筋に運動神経を通じてインパルスを伝えるのは、この運動神経細胞のする仕事になります。同様に、レベルBの神経核からの神経路はレベルAだけに、レベルC1からはレベルBだけにつながっています。命令が線条体から筋へと伝わるためには、CからB、BからA、Aから脊髄、脊髄から筋という具合に、四つの連続した神経伝達リレーが必要になります。線条体はすぐれた運動中枢としての利点と力をもっていたが、一方でこの歴史的に確立された装置には多くの欠点がありました。ロレント・ド・ノーら科学者の正確な測定によると、その欠点の一つとしてあげられるのは、神経伝達リレーは付加的な時間がかかるという点です(生理学ではこのような時間をシナプス遅延と呼ぶ)。この時間は温血動物では非常に短いです。当然ながら冷血動物になるともっと長くなり、もともと短くないこの神経プロセスが三、四回も繰り返されようものなら、哺乳類との差はますます広がってしまいます。
ものすごく単純にいうと、
レベルAは赤核まで。脊柱で平滑筋のような、無脊椎動物に近い動きができます。「ゆっくり」「なめらか」「体幹」
レベルBは淡蒼球まで。魚やカエルの動きができます。「手足をすばやく」
レベルCは線条体まで。鳥の動きができます。「走る、跳ぶなどの移動全部」「止まる、動くの切り替え」
そして、レベルCを起こしたい時にはBとAも経由する必要があります。
脳を継ぎ足していったので、信号を繋ぐためにはリレーする必要がある、というわけです。
ヒトの延髄には呼吸のための中枢があります。
ここが破壊されると、息ができなくなって死んでしまいます。
脊髄に近い脳ほど、生命の維持に深く関わってきます。
原始的な脳を持っている生命体はそれしか持ってなくても生きていますからね。
延髄の上に橋があり、その上が中脳です、
赤核は中脳にあります。大脳に比べてだいぶ下ですね。
中脳の後ろに小脳、中脳の上に間脳があって、そのうえが大脳です。
淡蒼球や線条体は、大脳基底核と呼ばれています。
つまり、大脳だけれど、底の方にある、つまり発生学上古い、ということです。
小脳については、先日NHKの番組の中で、陸上選手のフライングの限界時間を超える現象に関わっているのではないか、という番組がありました。
いまは小脳についての研究がけっこう盛り上がっているような感じです。
小脳は赤核とのループがあります。
小脳は多関節や多肢の運動の記憶と協調というような幅広い機能に関係している、といわれています。
ちなみに平滑筋とは、横紋筋よりも前にできた筋で、内臓などにある筋です。
移動などの運動には向いていません。
胃腸などで食べ物を動かしたりしています。
錐体外路運動系は鳥類で完成度の頂点に達しました(鳥のように、一般的に小さくて体温がとても高い動物では、錐体外路運動系の欠点は巨大爬虫類と違ってほとんど目立ちませんでした)。鳥の高度に発達した感覚器官は、走る、飛ぶ、よじ登るなどすべてのタイプの移動能力について完璧な命令を出しました。このような動きはすべて、魚やヘビのような体幹を使う種類のものではなく、進化的に新しい体肢を使う種類のものでした。飛ぶためには、感覚に基づいて完璧に平衡を制御することが重要になりますが、このことは人間自身が空を飛ぶようになってはじめて明らかになりました。動作を調節したり抑制したりすること、さらには完全な静止とゆっくりとした動きとすばやい動きを切り替えて行う能力は、爬虫類で発達しはじめました。この領域で鳥類は高い完成度と多様性を獲得するに至りました。最終的に、鳥類の運動リストには、爬虫類にない鳥類特有の動作が含まれています。まず第一に、鳥類は複雑な本能を数多くもちます。本能によって制御される鳥類の活動は、非常に高度なスキルが駆使されており正確で完璧であるために、そういった活動が、人間の労働に似た、認知にもとづく意識的な活動であるかのような印象を与えてしまいます。しかしその印象は大間違いです。そもそも、鳥類には認知の器官すなわち大脳皮質がありません[現在では、鳥類が大脳皮質の相同体をもつとする立場も存在します]。加えて、直接的な分析からも、人間に似た鳥の活動と、人間の知的活動自体とのあいだには大きな隔たりがあることが分かっています。
鳥は、いつもとはほんの少し違うことをする必要があったり、些冊な事柄を考慮する必要があったり、ほんのちょっと予想外の状況に出くわして工夫が必要になったりすると、突如として慌てふためいた反応を示します。その反応は、もっと下等な動物ですでに観察されたものとなんら変わりはありません。すなわち、渡り、巣造り、孵卵やひなへの給餌など本能による印象的な活動は、みかけが本物の知的活動に似ているだけなのです。真の知性はまがいものと違って、ちょっとやそっとの障害にはびくともしません。
それでもこうした本能は高いレベルの意味ある生物学的適応を示しており、鳥類以前の脊椎動物と比較しても明らかに鳥類の運動能力のほうが優れていることがわかります。
第二に、鳥類は家族で生活し、ひなを自ら教育します。この点は、爬虫類とは対照的です。母や母らしさという概念がこの地上に現れたのは、鳥がはじめて卵を孵らせたときです。この出来事は深く根本的な重要性をもつのですが、このことに関連して動作の豊かなレパートリーが新たに加わりました。餌を与えたり、ひなの面倒を見たり、飛ぶことを教えたり、そういった教育に直接結びつく行動が豊富になったのです。これらに加えて、「家庭をもつ」鳥は、羽繕いをしたり、巣の掃除をしたりするなど、自分の身のまわりの世話に関する複雑な動作のレパートリーも幅広くもっていました。鳥はまた、相手の気をひいたり警戒したりするための表現力豊かな音声や事実上の歌を生みだしました。ただ鳴きわめくだけのカエルとはわけが違います。それから踊りも生まれました。概して、鳥類の運動能力の上限は爬虫類よりもはるかに高いです。しかし上限が高いとはいえ、一つだけ足りないものがありました。大脳皮質です。そのため鳥類は、たとえ生まれつき才能があって高度に発連していても、自分の経験を蓄積したり、新たに複雑なスキルを獲得したりするには適していなかったし、とりわけ予期できないような運動の問題を巧みに解決するのには向いていませんでした。
現代で大きな問題になっている、家庭の育児での虐待、ネグレクト(無視)ですが、家族の愛情を十分に受けていない子どもは、その後の知能発達にも悪影響がでることが指摘されています。
他者とのコミュニケーション、愛情表現、歌や踊りといったことが、進化を促して人間が地上に現れた、という話ですが、いい話ですね。
人間らしさ、ということを人間しかできないこと、と定義すると、そういったことになるでしょうか。
また、欲望と表現されるようなことに誘惑されたり、負けたり、弱かったり、悩んだりすることを人間くささ、とかいいますね。
そういうことに悩めることも人間の特権です。
この記事のまとめ
◆レベルA:赤核まで。無脊椎動物に近い動き。脊柱で平滑筋のような、なめらかで、ゆっくりとした、経済的な収縮で中程度の力を発揮することができる。筋緊張に関わる。
◆レベルB:淡蒼球まで。魚やカエルの動きができる。手足を制御し、全か無かの法則にしたがい、素早い動きができる。
◆レベルC:線条体まで。鳥の動きができる。走る、飛ぶ、よじ登るなどすべてのタイプの移動能力について完璧な命令を出せる。体幹ではなく体肢がメインとなる。動作を調節したり抑制したりすること、さらには完全な静止とゆっくりとした動きとすばやい動きを切り替えて行う能力を担う。
◆レベルCは自分の経験を蓄積したり、新たに複雑なスキルを獲得したりすることや、予期できないような運動の問題を巧みに解決するのには向いていない。
◆小脳は赤核とのループがある。
◆命令が線条体から筋へと伝わるためには、CからB、BからA、Aから脊髄、脊髄から筋という具合に、四つの連続した神経伝達リレーが必要になる。
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